毎日自分に呪いをかけている
余裕を持って出社できた時は化粧をするが、遅刻ギリギリの場合は化粧をしない。
そもそも30才を過ぎるまで、全く化粧の習慣がなかった。
それなのに、今ではほぼ毎日のように化粧をしている。
毎日化粧をするようになったキッカケは些細なことだ。
たまのデートの時など、慣れない化粧をした私に向かって、パートナーが
「顔が白くて違和感がある」
と言ったのだった。
「違和感を感じるのは、君が私の化粧した顔を見慣れてないからだ。
見慣れればこの顔もそれなりに綺麗にみえるはずである。」
と、私は返した。
と、いうわけで、パートナーに慣れさせるために、仕事に行くときは毎日化粧をするようにしたのだった。
化粧が習慣づいてから半年後、パートナーに、
「どう?」
と確認した。
「うーん、確かに見慣れてきた気がする。
でも、もう止めてもいいんじゃないかな。毎日人工物を皮膚に塗るのは、なんだか良くない気がする。」
なるほど、納得いただけたのなら、もう化粧をする理由もない。
そう思ったものの、なんとなく化粧の習慣は続いていたが、ある時、あまりにも出社がギリギリで、化粧できない日が何日か続いた。
その間、職場でトイレに行く度に、私の目は、私の顔の一部に吸い寄せられた。
鼻の下にできたニキビだ。おや、私の歳ならこれは吹き出物というんだっけかな。
ファンデーションで塗り潰していた時には気にならなかった小さな吹き出物が、化粧をしないときにはこんなにも目立つものか、と思った。
この小さな違和感は、私だけが気づくものだと思う。
周りの人間は、そこまで他人の顔などまじまじと見ない。
化粧してないときには
「へー、化粧してるんだと思ってた。」
といい、してるときには、
「化粧してるの? へー、気づかなかった。」
ってなものだ。
この吹き出物やムラのある肌色なんて、誰も気づいてない。
そう自分に言い聞かせながらも、違和感がどうにも抜けず、私はまた、化粧をする生活に後戻りすることになった。
今までだったら、
「化粧をしてなくても、まぁそれなり」
「化粧をすれば綺麗になる」
という感覚だったのが、
「化粧をすれば、まぁそれなり」
「化粧をしないと粗が気になる」
という感覚に、いつの間にかなってしまった。
なんとも残念な話だ。
試しに毎日化粧してみよう、なんて思わなきゃよかった。
素のままの自分の顔に違和感を感じてしまうなんて、まるで呪いをかけているようなものじゃないか。