異星人同士の楽しみな会話
毎週、木曜日と金曜日には、職場の先輩と昼食を共にしている。
その職場の先輩というのはたいそう無口な人で、こういった昼食の場で自分から口を開くことは絶対にない。
職場で流行ったハーマンモデルテストをその先輩がやったところ、論理度100、友好度5という結果が出たので、つまりは非常に高度な論理性を持ち合わせる代わりに社交性を捨てた人なのだ。
そんなわけなので、昼食の時は大概私がほぼ一方的に話しかけ、先輩が薄い反応を返す。
この間の会話はこんな感じだった。
「この間、フーターズっていうとこにご飯食べに行ったじゃないですか。
あの店のお姉さん達、めっちゃ露出度高かったですねぇ。」
先輩は、聞いてはいるよ、という風に目線をこちらに向ける。
「写真撮ったりしてる人もいたし、私も注文待ってる間、つい目で追っちゃいましたよ。でも先輩はそんなことしてなかったですねぇ。
紳士なんですねぇ。」
「先輩はこうしてご飯一緒してる時も、スマホ弄ったりしないですし、そこもジェントルマンですねぇ。」
「私は、誰かと一緒にいる時にスマホ弄らないのは礼儀だと思ってそうしてるんですけど、でも別にそういうのって人に押し付けたりできるものじゃないじゃないですか。だから目の前でスマホ弄るのやめてって言うのもどうかと思って。」
「先輩はなんでスマホ弄らないんですか? やっぱりマナーとか気にしてるんですか?」
そこで、やっと私は話すのをやめてじっと先輩を見る。
先輩は私の質問を少し吟味する様子を見せた。
うん、あんまり人前でスマホ弄ったりはしないかな。
自分がスマホ弄ってるところを人に見られたくないんだよね。
「ほほぅ。」
と私はうなづいた。
そんな答えは予想もしなかった。
世の中にはこんな風に、他人に自分のことを細々と見せたりしたくない人間がいるのか、と。
そういえば先輩は写真も撮らせてくれない。
私はといえば、職場の人に好きなだけ写真や動画で撮影してもらっているというのに。
なんなら撮影してくださいとお願いしたいくらいなのに。
そこで会話は終わり、我々は黙々と食事を口に運ぶ。
先輩は確かに自分から口を開かないが、私は先輩と毎週ランチに行くのが苦でないどころか楽しみにしている。